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「ポップコーンって、近くにあるとついつい食べちゃうよね!」
そう言うと、彼女はポップコーンの袋を僕に向かって差し出した。僕は思わず苦笑いしながら手を伸ばした。彼女は満面の笑みで、微笑みかけてくれた。
「ところでさ・・・この映画は?」
僕はまだ寝ぼけた頭のまま、そう言った・・・。いや、言ってしまったというのが本当のところかもしれない。言ってはいけない言葉を・・・。
「有名なバレエを題材にした映画だよ。知らない?」
彼女のその言葉と同時に、画面の中で止まっていたおとぎ話が動き出した。でも逆に、僕の心臓は、何かに掴まれて止まってしまったようだった。彼女の言葉の終わりだけが、リフレインして聞こえてきた。
“知らない?”
しまった・・・。それは見たこともない映画だった。知らない。分からない。でも、僕は彼女には、映画好きだと嘘をついていた。知らないなんて言えない・・・。
凍り付いている僕に、彼女は続けた。
「本当はあんまり、知らないんでしょ?映画のこと・・・」
彼女の表情から笑みが消えていた。怒り・・・ではないようだった。でも、その表情が何であるかなんて、考える余裕なんか無かった・・・。
「ごめん・・・」
そう言うしかなかった。これで彼女との時間が終わるとしても・・・。
どれくらいの時が流れたろう、随分長い時間だった気がする。でも、画面の中で小さな女の子が、ものの数行のセリフを言うくらいの短い間だったかもしれない。
「やっぱりね」
そう言うと、目の前の彼女は笑いだした。いつもの笑顔だった。
「わかってたよ。本当は映画、あんまり見ないでしょ?最初からわかってたよ。一生懸命にあわせてくれてるって・・・」
彼女は言いながら、ポップコーンを僕の口に押し込んだ。
「一緒に映画に行った時からわかってた。一生懸命、話をあわせてくれてるけど・・・ちょっとハチャメチャだったから・・・。でも、いい人だっていうのはよくわかったの。だからいいの」
僕のダメっぷりを、彼女は笑顔で話した。僕はどんな表情をしていいのか全然わからなかったけれど、彼女は笑ってくれていた。
「私は映画が好き。私の好きな人が、映画を好きなら、それはそれで嬉しいけれど、私が知らない何か別なものが好きで、それを私がまた好きになれたら、きっともっと嬉しい。だから、今度は本当にあなたの好きなものを教えてくださいね」
ペコリと彼女は僕におじぎをした。僕は彼女を好きになって良かったと、心から思った。そして、彼女が僕を好きになってくれて良かったと、心の底から思った。
テレビには、いつの間にか終わってしまった映画のエンドロールが流れていた。そこで僕は、この映画のタイトルを知った。ナットクラッカー。チャイコフスキー作曲のバレエ音楽。“くるみ割り人形”といった方が分かりやすいかもしれない。僕はその名前を知っていた。なんだか笑いがこみ上げてきた。
僕は彼女が持っていたポップコーンを一つ、手に取った。
「あのね、僕の好きなものを教える前にね、ちょっとだけ面白い話を聞いてくれるかな?サラブレッドたちはね、2歳を迎えた頃から成長に合わせて競馬場でデビューしていくんだけどね、今年1番最初に勝った2歳の馬の名前がね、ポップコーンていう名前なんだ。でね、そのお母さんの名前がね・・・」
僕の話に、彼女の瞳が輝いていくのが嬉しかった。とても嬉しかった。
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